岸井 貫紹介

氏名岸井 貫 (きしい とおる)
生年月日昭和2年9月7日
没年月日令和2年3月23日

ガラスの品質管理技術の研究開発

業績

昭和25年東京大学理学部物理学科を卒業後東京芝浦電気(株)へ入社、硝子技術部から同中央研究所へ移りその後東芝硝子(株)へ入社、平成元年同社退社後千葉工業大学付属研究所教授となった。

一貫してガラスの品質管理のための特性測定に関する研究に従事し、カラス製品内部の応力測定、表面の応力の測定等従来にない方法による画期的な技術を考案し製品化した。 ガラスの熱膨張測定においても同様に独自の技術により製品化を図りそれらの技術はJIS R 3222、JIS R 3251に採用された。 その他にもガラスの粘度測定では装置の自動化を図りそのJISの原案委員を務めJIS制定に尽力をつくした。 また、気密封着体ガラスの応力研究では紫外線によるガラス内の応力発生をいち早く認め応力発生の少ないガラスの研究を行ったことなど現在のランプ製造に欠かせない基礎的技術の発展に貢献した。

このように研究開発された技術は一部は製品化され、また多くの文献等により広く公開されたことにより広くガラス製品製造過程の品質管理のために利用され、無くてはならないものになっている。(研究開発の概要 参照)

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表彰歴

化学技術庁長鑑賞(科学技術研究功績賞)
表彰年月日平成元年4月17日
表彰内容光弾性効果を利用した表面応力測定に関する研究
表彰主体科学技術庁
受賞者岸井貫

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略歴

昭和25年04月 - 昭和39年10月東京芝浦電気(株)ガラス技術部入社(14年6ヶ月)
昭和39年10月 - 昭和58年10月東芝(株)中央研究所入社(19年)
昭和58年10月 - 平成元年09月東芝硝子(株)技術部専門主幹(5年9ヶ月)
平成03年04月 - 令和2年3月23日(有)折原製作所顧問(29年)
(同)平成03年04月 - 平成17年千葉工業大学付属研究所非常勤教授(15年)
発明研究歴計30年(平成22年6月現在)

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実施効果

ガラスの品質管理のなかでも電気抵抗、密度、熱膨張、粘度等の特性を正確に把握することは製品が十分に性能を発揮するために重要であり、 歪み検査や表面応力測定は熱加工後の残存歪みの管理に重要な役割を果たしている。

(1)ガラスの歪み検査、表面応力の測定

ガラスの製品はその製造工程において熱加工がなされることが多くそのときに生ずる熱歪みの残留は後に遅延破壊に至ることも少なくない。 そのために除歪処理等が行われるがそれらの管理に歪み検査、表面応力測定が必要となる。 またガラス製品の中には人為的にその表面に圧縮応力を作り込むものもあり、強化ガラス安全ガラス等と呼ばれるがそれらも同様に表面応力の測定が品質管理上必要となる。 双方ともJISにより品質管理のための基準が設けられている。特に後者は独自に開発した技術がJIS R 3222に採用された。

(2)ガラスの電気抵抗測定

管球用ガラスにおいては導入線、支持線間の絶縁は良くなければならない。また電極等に利用される場合は低抵抗のガラスが要求される。 こうした用途に使用されるガラスの製造に必要な技術である。

(3)ガラスの密度測定

ガラス工業では無機原料とリサイクルされるガラス(カレット)とからガラスを溶解している。 作られたガラスの化学組成と性質とが常に一定であることが必要である。 密度も一定である必要があるが、ガラスの密度は熱履歴に依存して変化をするためそれらの条件下で組成のみに依存した密度が測定できるようにする 理論と技術が必要である。

(4)ガラスの熱膨張測定

ガラスも他の物質と同様に温度の変化に伴い膨張をするがガラスそのものが割れやすく製品の温度分布による破壊が起こる場合もある。 特に異種のガラスが接合される場合や他の物質と接合される場合などその熱膨張率の違いにより破壊を招く場合もあるため熱膨張の測定が必要になる。 特に膨張が小さいガラスの測定方法に関してはJIS R 3251にその技術が採用された。

(5)ガラスの粘度測定

ガラスの粘度管理は成型、加工、除歪等行程に必要であり、これらの条件が不適当であると前出の熱歪みが残留したり製品内に不均質を生じたりする。 JISにおいても粘度測定は従来より規定されており、当初その原案委員を務めた。

(6)各種封着体の応力測定

ランプの電極のようにガラス内に金属が封着された場合に発生する応力は双方の熱膨張の違いにより大きくなることがある。 製品となった後それが原因で破壊し、事故につながる可能性もある。 使用される条件下でのガラス体内に働く応力を小さくするためにはそのメカニズムや発生する応力の大きさ、分布を知ることが必要である。

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実績

(1)ガラスの歪み検査、表面応力の測定
特許
  • 特許1796708号 小さい光路差の測定に適したひずみ測定装置
  • 特許716726号 表面応力測定方法
  • 他9件(主要特許・実用新案一覧参照)
文献・著書
  • 歪検査器の利用技術(NEW GLASS THECNOLOGY)
  • ガラス製品の表面応力測定法(NEW GLASS THECNOLOGY)
  • 他54件(研究論文一覧参照)
国内のガラス製品の生産量(板ガラス以外)

ガラス製品には容器類、食器類等があるが熱加工後の除歪処理管理に製品の歪み検査をする必要がある。 特に炭酸飲料用ガラス瓶はJISによってその検査が定められている。通産省の統計によれば次の通りである。

1995年1996年1997年
ガラス製品の生産量(1000t)2,3422,3182,260
販売金額(億円)3,1502,6902,680
国内の強化ガラス製品の生産量(板ガラス)

強化ガラス製品には自動車用窓ガラス、建築用窓ガラス、複写機用裁物台ガラス、腕時計用カバーガラス等があるがそれらのほとんどが板ガラスの加工品である。 強化処理を施した製品の品質管理においては表面応力計による測定が最も有効であり、非破壊で管理できる唯一の装置である。 通産省の統計によれば次の通りである。

1995年1996年1997年
強化板ガラスの生産量(1000m2)3,007631,41232,959
販売金額(億円)1,3701,3701,440
(2)ガラスの電気抵抗測定
特許
  • 特許849093号 抵抗用グレーズ
  • 特許1060858号 抵抗体
文献・著書
  • ガラスの表面漏洩抵抗(窯業協会紙)
  • 管球用ガラスの電気抵抗(東芝レビュー)
(3)ガラスの密度測定
文献・著書
  • 加熱によるガラスの密度変化(窯業協会紙)
  • 密度(朝倉書店"ガラスハンドブック")
  • 他7件(研究論文一覧参照)
(4)ガラスの熱膨張測定
実用新案
  • 実用新案 1131280号 干渉膨張計
  • 実用新案 1953830号 示差膨張計
文献・著書
  • 熱膨張測定の自動化(窯業協会紙)
  • 他17件(研究論文一覧参照)
(5)ガラスの粘度測定
文献・著書
  • 管球用ガラスの粘性係数(東芝レビュー)
  • 他3件(研究論文一覧参照)
(6)各種封着体の応力測定
特許
  • 特許816329号 被覆層を有するジュメット線
文献・著書
  • ガラスと金属の封着(工業材料10巻12号)
  • ガラスと金属の封着について(日本硝子製品工業会"ガラス製造の現場技術(9)")
  • 他21件(研究論文一覧参照)

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技術の概略

開発された技術の特徴を示す図(1)JIS R 3222
表面応力を測定する装置の例

開発された技術の特徴を示す図(2)
内部応力を測定する装置の例

開発された技術の特徴を示す図(3)JIS R 3251
光干渉式熱膨張測定装置の例

従来技術を示す図(1)
鉄球やポンチによる衝撃試験の例

従来技術を示す図(2)示差式熱膨張測定装置の例

本件技術の内容
(1)表面応力測定装置

表面応力測定装置は単色光源、測定用プリズム、偏光望遠鏡から構成されている。
自動車の窓ガラス用の例

  • 平面、曲面にも対応出来るように3本の調節可能なレベルねじを具備していてベースに光源、測定用プリズム、偏光望遠鏡が取り付けられている。
  • 光源から発せられた光は入射側プリズムを経てガラスの表面を進行し表面付近に存在する応力の影響を受けて再び射出側プリズムより放出される。
  • 偏光望遠鏡に取り付けられた接眼測微計内の目盛上にプリズムより射出した光が像を結び、これを計測することで表面の応力を測定出来る。
(2)内部応力測定装置

内部応力測定装置は偏光光源、位相差検出板、検光子から構成されている。
板ガラスのエッジ歪み測定用の例

  • 光源から発せられた偏光光はガラス内部の応力に影響を受けて検出部に入射する。
  • 板ガラスのエッジを挟み込み移動しながら測定出来る構造となっている。
  • 検出部ではバビネ補整器という水晶片でできた素子により内部応力の状態を可視化して、これを計測することで内部の応力を測定出来る。
(3)光干渉式熱膨張測定装置

光干渉式熱膨張測定装置は電気炉、干渉板、レーザー光源、検出回路から構成されている。

  • レーザー光線は反射ミラーを経由して試料を挟んでいる干渉板に入射する。
  • 入射した光は試料を挟んでいる干渉板の面で反射して検出回路に入射する。
  • 干渉板で反射した光のうち試料を挟んでいる2面からの光は互いに干渉しあい強めあったり弱めあったりする。
  • 試料が膨張して長さが変化すると干渉の状態が変化して検出回路によりその変化を電気的に 変換して記録することが出来る。
従来技術の内容
(1)強度の試験落下による衝撃試験

強度の試験落下による衝撃試験はその質量、高さを変える事でエネルギー量を変化させ、対象となるガラス製品の耐衝撃性能を評価する。 ポンチによる衝撃試験はその割れた破片の形状、数量により評価する。

(2)示差式熱膨張測定装置

示差式熱膨張測定装置試料が膨張して長さが変化するとそれに伴い石英ガラス棒が上下する。その変化量をダイヤルゲージにより読みとる。

本件技術の効果
(1)表面応力測定装置
  • 非破壊的に測定する事が可能である。
  • 破壊に繋がる表面の応力を正確に測定する事が可能である。
(2)内部応力測定装置
  • 非破壊的に測定する事が可能である。
  • 機動性を持たせ、測定の迅速化を計る事で生産現場での品質管理が容易になる。
(3)光干渉式熱膨張測定装置
  • 試料の膨張を他の何者も介せずに直接測定するため誤差が小さい。
  • 小さな試料(1~10mm)で測定可能である。
  • 光の干渉を利用しているため測定分解能が高い。(0.06ηm)品質の向上に必要な生産工程への情報のフィードバックが容易である。
従来技術の効果
(1)強度の試験落下による衝撃試験
  • 強度の試験衝撃試験による管理は単にデータの信頼性に限らず製品の損失による生産性、製品間の規格統一性にも欠ける。 品質の向上に繋がる情報は得にくく生産工程へのフィードバックは困難である。
(2)示差式熱膨張測定装置
  • 試料の膨張を石英ガラス棒により伝えるため、誤差が大きい。
  • 試料が大きいため(100mm)温度の均一を保ちにくく、試料内部に不均質を含む可能性も高い。
  • ダイヤルゲージで読みとるため測定分解能が低い。(1ηm)

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